表紙コメント通り、「スローライフ入門書」としてはわかりやすいと思った。私達はお金である程度の幸せを手に入れられる。が、そのお金は「見栄」のために必要なのではないか。お金を稼ぐことばかりに執着せず、低所得でも節約しながら暮らすこともできるし、働きすぎて自分を追い詰めない精神的な豊かさにもつながる。そのため「見栄を捨て、私生活を犠牲にして苦しんでまでお金は稼ぐ必要がない」というメッセージにも感じた。
ただ、タイトルにある「見栄を捨てる」と「ゆるく生きる」という言葉が並んでいることに、読んでいて違和感があった。本に紹介されている節約方法は、固定費の削減やミニマリストな生活など、節約好きの人は誰もが試したことのある内容だ。中には、外食をタダ同然で食べられる覆面調査などコアな話まである。しかし、経験者からすると「ゆるく生きる」へのハードルが高い。節約することで確かに支出は減らせる。自分の最低限の暮らし(家賃・被服費・食費など)がわかれば、それにあわせて生活すれば支出が減らせる。だが、それは私にとってストレスだ。食費は削れるものなら削りたいし、人並みに節約もしている。が、覆面調査をしてまで削減したくない。ポイ活やキャンペーンを駆使すれば生活費の足しになるが、それも面倒だ。いわゆる、支出を減らすための行動が私にとっては「ゆるく生きる」ことではないのだ。
だが、こういった感想はある程度生活が安定しているからこそ持つのだと思う。「なるべく働きたくない」「低所得だが浪費で困っている」という人には刺さる内容だろう。節約生活の入門としては読みやすいからだ。
自分に合わないかもしれないと思った本だったが、何箇所か共感した部分がある。
たとえば、友人や知人から余っている服を譲ってもらうことができれば、衣類を手に入れることができます。
(中略)
つまり、必ずしも「お金」というツールを経由する必要はないのです。
いなり出版 , しめじ .〜見栄を捨てて〜 ゆるく生きる: 自分らしく生きる思考法.いなり出版,2022,29p.
これを読んでハッと気付いた。私自身、「お金である程度の物事は解決できる」と思っている節がある。しかし、あくまでお金はツールだ。どうしても欲しいものがあって相手に譲って欲しいときに「お金じゃ交換できない」と言われればそれまでなのだ。逆に、お金より恩を売っておくことを重要視する人もいるだろう。お金は物事を解決できる優秀なツールだが、それが全てではないと改めて考えさせられた。
将来について不安を抱いている人は、仮に2000万円以上のお金を手に入れたとしても、別の不安に悩まされる可能性が高いのです。
いなり出版 , しめじ .〜見栄を捨てて〜 ゆるく生きる: 自分らしく生きる思考法.いなり出版,2022,43p.
老後2000万円問題の話を例に著者は話している。ただでさえここ数年は、震災や新型ウイルス、ウクライナ侵攻など予期しないことがたくさんあった。私達が数十年後に何が起こるかはわからない。将来というのは流動的だ。だから「わかりようも無いこと」は必要以上に悩まなくてい。「保険として資産形成する」などはありだと思うが、老後問題のために「今の生活を犠牲にしてまで貯金する」という人は、目標達成しても、「将来」に対して今後も別の悩みに悩まされるだろう。
さて、引っかかっていた「ゆるく生きる」という言葉だが、著者が提唱するマインドが「当たり前」になれば、それほど辛いことでもないのだろう。固定費削減は一回設定してしまえば楽だし、物欲も慣れればコントロールできる。日々、頭の中でお金の悩みがぐるぐるしている人にとっては。なにか発見がある可能性を秘めた本だろう思った。